気候変動対策が求められる時代背景
国内では、経済成長を豊かさの一つの目標として、第二次世界大戦後の世界経済は飛躍的に発展してきました。
1973年の第1次石油危機(オイルショック)の発生まで、日本経済は高度成長を続け、1960年代後半の実質経済成長率は10%を超えました。この間、エネルギー需要は拡大を続け、1965年~1974年の10年間では2倍強、1955年頃から見れば、実に7倍に増大しています。
しかしこの発展の裏側では、大気汚染や水質汚濁、自然破壊、健康被害などの問題も各地で顕在化し、深刻度を増してきました。
それでも尚、世界では、さらに経済成長を求めての自然破壊は地球規模で拡大し、様々な自然災害や、生物多様性の減少などに加え、人口増加と経済成長に伴う生活水準の向上を求めた結果、エネルギー、食糧、天然資源への需要も増加し、人為起源の地球温暖化を進行させて来ました。
今、目の前で起こる課題は世界の国々共通の課題となり、これを解決するためには世界規模で取り組まなければ解決し得ないことが明白になってきました。
そのために全196カ国の政府が参加する気候変動枠組み条約締約国会議(COP)や、気候変動に関する政府間機構(IPCC)らが主軸となって、地球温暖化問題に取り組んでいます。
日本では、菅総理大臣(当時)は、2020年10月26日、 所信表明演説において、「わが国は、2050年までに、 温室突効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち 2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを 宣言し、2021年10月22日に「パリ協定に基づく成長戦略としての 長期戦略を閣議決定し、国連に提出しています。
2021年8月、IPCCが地球温暖化の科学的根拠をまとめた第6次評価報告書は、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地はない」と、従来より踏み込んで断定しました。この報告に対して国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「人類への赤信号」だと発言。そして「私たちが今、力を結集すれば気候変動による破局を回避できる。しかし、今日の報告がはっきり示したように、対応を遅らせる余裕も、言い訳をしている余裕もない。各国政府のリーダーとすべての当事者(ステークホルダー)がCOP26の成功を確実にしてくれるものと頼りにしている」と続けました。
➀意識され始めた現代経済社会の限界

経済成長を一つの豊かさの目標として、第二次世界大戦の世界経済は発展してきました。
一方で、飛躍的な経済成長を遂げた先進諸国においては1960年代から、1970年代にかけて公害が大きな社会問題になったことや、当たり前のように利用してきた地球の資源の有限性が様々な研究で明確になり、それらが世界的に意識されるようになっていきました。
➁経済社会の限界に関する問題提起

1972年、世界中の有識者が集まって設立されたローマ・クラブは、同年に「成長の限界」と題した研究報告書を発表。人類の未来について「このまま人口増加や環境汚染などの傾向が続けば、資源の枯渇や環境の悪化により、100年以内に地球上の成長が限界に達する」と警告しました。この研究報告書では、将来の世界の状況について起こり得る複数のシナリオをまとめており、再生する速度以上のペースで地球上の資源を人間が消費し続けると仮定したシナリオでは、世界経済の崩壊と急激な人口減少が2030年までに発生する可能性があると推定し、当時の世界各国に衝撃を与えました。
➂人口及びエネルギー利用の増加による
地球温暖化の進行

経済協力開発機構(OECD)の報告書「OECD環境アウトルック2050」によると、2010年から2050年までに世界人口が約70億人から約90億人以上へと増加し、世界経済の規模が4倍近く加速することが予測されています。
人口増加と経済成長に伴う生活水準の向上により、エネルギー、食糧、天然資源への需要も増加し、それがさらなる環境汚染につながる可能性があると予測されています。
また、地球温暖化に関しては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、各国の政府から推薦された科学者の参加のもと、地球温暖化に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、現状の分析と今後の予測について、数年おきに評価報告書を公表しています。
1990年発表の第1次評価報告書では「人為起源の温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響を及ぼす気候変化が生じる恐れがある」と警告されました。
1995年に発表された第2次評価報告書では、「二酸化炭素の温暖化寄与度が最も高い」と確認したと発表。さらに2001年の第3次評価報告書では、「温暖化は過去50年間の人間活動によって生じた」と発表。2007年の第4次評価報告書では、「気候変動が人為によって起こされたことはほぼ確実。温室効果ガス濃度を安定させるためには、2050年までにCO2排出量を2000年比50~85%削減しなければならないと発表しました。
2015年発表の第5次評価報告書では「地球温暖化にはもはや疑う余地がない」と断定。温室効果ガス排出量を2010~2050年に40~70%削減、2100年にはほぼゼロ以下にして、温度上昇を2℃以内に抑える取り組みを進めるべきであると提言しています。
2015年COP21には「パリ協定」が採択。2015年11月4日に発効されました。
全196カ国の政府が二酸化炭素排出量の削減目標を設定し、相互に目標と達成状況をチェックし合うという法的拘束力のある国際条約のもとで温暖化対策に取り組むことに合意するというもので、これ以降「低炭素」ではなく、「2050年・脱炭素・ゼロエミッション・炭素中立」が世界の政策目標になっていきます。
2018年10月、IPCC「1.5℃特別報告書」を公表しています。その中でCO2排出量を2030年までに2010年比約45%削減、2050年前後には正味ゼロに達する必要があると訴求しています。
2021年に発表された第6次評価報告書では、「人間の影響が大気、海洋、及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と強調し、さらに、「人為起源の気候変動は、世界中のすべての地域で多くの極端な気象と気候にすでに影響を及ぼしている。」と記しています。
この報告書に対して、国連のアントニオ・グテ―レス事務総長は、「人類への赤信号」であると発言。「私たちが今、力を結集すれば、気候変動による破局を回避できる。しかし、今日の報告がはっきり示したように、対応を遅らせる余裕も、言い訳をしている余裕もない。各国政府のリーダーとすべての当事者(ステークホルダー)がCOP26の成功を確実にしてくれるものと頼りにしている」と述べています。